四天王寺高校のNさんが川崎医科大学に正規合格しました。1年間の彼女の頑張りを見てみましょう。
1.覚悟の確認
最初にお会いしたのは高3になる直前の2月でした。成績を見せていただいたところ,数学よりも英語の方が良く,理科はまだまだでしたので,およそ理系の人のものではありませんでした。何年も勉強してそれでも受からなくて他の道を選ぶことになった教え子たちの顔が浮かびました。そこで彼女に問いました。
「医学部受験は,いったん始めてしまうと合格するまでは抜けることができない深い森のようなものなのですが,それをわかっていますか?」
私は今までに教えた人たちで残念にも道を諦めなければならなかった人たちのお話をしました。
「それでも合格するまで頑張る」というのが彼女の返事でした。
2.勉強の方針
着手するのが遅れているのが明らかだったので,次の方針で勉強を進めることになりました。
① 数学Ⅰ・A・Ⅱ・Bの代表的問題を解けるようにする。そのために最初は数学Ⅰ・A・Ⅱ・Bに集中する。
② 数学Ⅲをやらないことは受験できる大学が限定されてしまうので不利になる。なので数学Ⅲについてもどこかの段階で始める。
3.1巡目(2月~7月)
数学Ⅰ・A・Ⅱ・Bの中心課題である三角比・場合の数と確率・ベクトル・数列・微分積分を基礎から受験初級にいたるまで一通り復習しました。途中から数学Ⅲの複素数平面を平行して始め,数学Ⅱの微分積分に引き続いて数学Ⅲの微分積分をしました。
教材は
・数学Ⅰ・A技法トレーニング210(旺文社)
・数学Ⅱ・B技法トレーニング247(旺文社)
・即戦ゼミ大学入試数学頻出問題総演習理系編数学Ⅲ・C(桐原書店)
・複素数平面を得意にする問題集(駿台出版)
・数学ⅠA・ⅡB総合問題集アクティベイト(自作)
4.2巡目(8月~9月)
7月の時点で一通りの復習が終わったので,中堅私大医学部の問題から編んだ分野別問題集「進撃の私大医学部数学」(自作)をやってもらいました。でもこの時点では「知る」だけで「解ける」まではいきませんでした。
5.3巡目(10月~11月)
近大推薦試験が近づいてきたので,「進撃の私大医学部数学」を途中で切り上げて,近大推薦対策に入りました。
6.4巡目・5巡目~13巡目
近大推薦試験後,残り2か月となった一般入試までの間に,受験校すべての対策をしました。テキストは各校の過去問を分野別に編集したものです。この狙いは
① 同じ単元を各校ごとに学ぶことで短期間に復習を繰り返すこと
② 各校の特徴的な出題を知ること
受験校は,受験日順に①愛知医科大学,②川崎医科大学,③兵庫医科大学,④金沢医科大学,⑤藤田医科大学,⑥関西医科大学,⑦近畿大学,⑧大阪医科薬科大学,⑨近畿大学(後期),⑩関西医科大学(後期),⑪大阪医科薬科大学(後期)
です。1月末に川崎医科大学の合格が判明しましたが,すべての学校を受けました。
7.なぜ合格できたのか
この1年間で解いた問題は,1巡目は数学Ⅰ・A・Ⅱ・B400問,数学Ⅲ200問,2巡目は数学Ⅰ・A・Ⅱ・B200問,数学Ⅲ50問,3巡目(近畿大学推薦)26問,4巡目(関西医科大学)33問,5巡目(愛知医科大学)36問,6巡目(川崎医科大学)10問,7巡目(兵庫医科大学)14問,8巡目(金沢医科大学)8問,9巡目(藤田医科大学)49問,10巡目(大阪医科薬科大学)25問,11巡目(近畿大学後期)27問,12巡目(関西医科大学後期)14問,13巡目(大阪医科薬科大学後期)12問の全部で1100問です。
時間がない中で最大の効果をあげる勉強法は,出題される可能性のある問題を何度も何度もやり直しをすることですが,それはせいぜい200問程度でなければなりません。それを超えると何度もできないし,理解できないものが残るでしょう。そう考えるとこの問題数は多すぎます。でもこうしたのは「知ってもらうこと」が大切だと考えたからです。1年で終わるかどうかわからない受験生活において最初の段階・最初の先生はとても大事です。受験の全体像を見せないで,小出しに見せていくようなことをすると,仮にだめだったときに何が足りなかったのかを知ることができなくなる。なので,無理でも試験が要求するレベルを知ってもらうために,夏に「進撃の私大医学部数学」,10月からはすべての学校の問題をやってもらいました。その代わり各校のテーマを共通にして,同じテーマを巡って何回も同じことを考えてもらえるようにしました。解説もこれ以上ないほど丁寧に作りました。結局同じ問題を何度もやるのと同じ効果があったようです。
「乱列」という難しい論点を「進撃の私大医学部数学」で最初にやったときはまったく手も足も出なかったのが,兵庫医大あたりでやる頃には漸化式でも包除原理でも自分からできるようになっていました。彼女はこの1年でものすごい進化を遂げたのです。一般入試が始まる1月16日には,どこかに合格することは確信していました。彼女が合格した理由は素直であったこと。けっして音を上げることがなかったことに尽きると思います。