数学を志す者を教育する一般的な方法は「セミナー」です。一つのテキストを輪読することですが,私も大学に入ってすぐにその洗礼を受けました。
大学院生が指導する自主セミナーに入ったのですが,初回に大失敗をしたのです。黒板の前で1行1行説明をしたのですが,矢継ぎ早に指示が飛びます。
ステートメントを述べよ。Exampleを挙げよ。Well-Definedの検証をせよ。ステートメントに論拠を含めてはならない。
黒板の前であたふたするばかりで,結局ほぼ1行も進まないで終わりました。セミナーの終わりに指導者の大学院生が言うのです。
論拠を述べた上で主張するというのが論証のスタイルであると思っているかもしれない。本もそのように書かれている。でも本に書かれていることを疑ってひとつひとつ吟味する段階では,論拠と主張とは切り離して主張のみを確かめる必要がある。
論拠を述べなければ無責任ではないかと思われるかもしれないが,主張の真偽を確かめるのはここにいるみんなである。みんなで論拠を考えればよい。
それにセミナーは報告会ではない。本に書かれていることを報告することが目的ではない。本に書かれていることをめぐって深く考えることが目的である。
だから本が論拠を挙げていてもその通り伝えてはいけない。
私はこの1回のセミナーで,数学の本の読み方ばかりではなく,真実を追求するやり方をも教わったように思います。