私に依頼される方のご要望は,ほとんどの場合すでに履修している単元を完全にしてほしいということです。つまり復習することなのですが,「復習」とはどういうことでしょうか。同じことを同じようにもう一度することでしょうか。それで済むなら幸いなことですが,そうは問屋がおろしません。どこかに不具合があるのでできなくなっているのです。その場合は同じことをしても不具合が治ることはありません。
ではどうするかというと,より原理的なところに戻って登ってもらうことになります。
三角比を例にとって説明しましょう。
三角比は直角三角形の二辺の間の比例関係を表す比例定数として導入されるのが通例です(下図参照)。
でもこれは「比」です。比というものは考えにくいものです。実際,三角比の2000 年以上の歴史においても,「比」として定義されるようになったのは今から300 年前というごく最近のことなのです。それまでは「比」ではなく「実際の長さ」を表すものでした。現在の定義からさかのぼって,昔の定義に戻すにはどうすればよいかというと,「比=分数」の分母を1にすればよいのです。すると次の図が現れます。
すなわち,「基準」としていた斜辺cを1とすれば左図が現れ,「基準」としていた底辺bを1とすることで右図が現れます。これが(正確には異なりますが)古代の人が考えていた三角比の正体です。この図を使って古代の人は今とほとんど変わらない知識体系を築き上げていたのです。三平方の定理も加法定理も二倍角の公式もすべてこの図だけで導いていたのです。
実はそれは「比」として定義された三角比を扱うよりも自然で分かりやすいのです。そりゃそうですね。古代の人ですら理解できたのですから。
私と勉強すると,このようにしてより根源的な理解をすることによって,それまでつまずいていたことを解決していくことになります。