私は子どもの頃,家では洗濯係でした。そのとき言われたのは「靴下を洗う前に一足ずつそろえておきなさい」ということでした。そんなの洗ってからでもよいじゃないかと思いましたが,その通りにしてみると,この言葉は文字通りの意味以上のことを意味していることがわかってきたのです。
丸まっている靴下を伸ばして一足ずつペアにする。この作業をしていると,結局どんなものを洗うのか事前に調べることになります。穴があいた靴下がいくつあるか,一緒に洗ってはいけないものがないか,どの組み合わせで洗うと回数を減らせるか,もこの段階でわかります。
そればかりではありません。物干しにいくつハンガーを出しておけばよいかも分かるのです。
「靴下を洗う前に一足ずつそろえる」というたった一つのことが,その一つのことにとどまらないで,洗濯のやり方全体を変えてしまうことになったのでした。
数学も洗濯と同じような小さなことがらの集まりです。洗濯より高度な構造物であるために,それを構成しているものが一つ一つの小さな工夫であることがわからなくなっているだけです。例えば,
「意味のあるまとまりが完結しないうちは,次のことに手を出さない」
とか
「与式=第1式+第2式
のような部分に分かれる計算は,各部分を計算した上で,組み合わせる」
というようなことです。このような小さな工夫を身につけていくことが数学の力を高めていくことなのです。